私がベトナムによく訪れていたのは、およそ10年前のことだ。今回、久しぶりに再びホーチミンの地を踏んだ。
その変貌ぶりには、ただ驚かされるばかりだった。
まず、街中でタクシーをほとんど見かけない。
正確には、もう「駆逐された」と言っていいのだろう。
その代わりに、Grabが圧倒的な存在感を放っていた。スマホひとつで呼び出せる配車サービス。
車もバイクも移動や宅配は何でも格安でGrabらしい。Uberと似たようなサービスだがとにかく便利だ。ボッタクリや不正の心配も無いし、何よりベトナム語で行き先の説明をしなくて良い。
当たり前のように便利になったこの仕組みが、ベトナムでも完全に浸透していた。
10年前とはまるで別世界だ。
とはいえ、相変わらずバイクの洪水は健在だった。
ホーチミン名物とも言える、バイクの波。
その中でも特に目についたのは「ホンダ・リード」だった。
バイクといえばホンダ。バイクの代名詞がHONDAというくらいだから。
「YAMAHAのHONDAに乗ってるぜ」みたいなややこしい話しになるが日本人としては、誇らしい気持ちすら湧いてくる。
今回は男3人で行動し、食事はもっぱらローカルな店を巡った。
ホーチミン料理も、フエ料理も、その場の気分で。
驚いたのは、その物価だ。
3人でたらふく食べても、せいぜい一人2000円程度。時には1000円もかからない店もあった。
ベトナムは出汁文化なので、スープも本当に優しい味で美味しい。
私は元々ハーブが少し苦手だったが、現地の料理と一緒に食べると、不思議と気にならなかった。むしろ「これも旅の味わいだ」と自然に受け入れられた。
街の空気、人々の様子を眺めていて、ふと気づく。
「老も若きも人々がとにかく自由だ」と。
社会主義の国でありながら、彼らはとても自然体で、自分の軸で生きている。
焦ることなく、しかし、しっかりと上を目指している。
街は若く、経済は右肩上がり。
頑張る者が報われる、成果主義の空気が流れている。
収入も頑張れば青天井。
優秀な者は、とことん上を目指せる。
私は、これが戦後の日本、高度経済成長期の空気だったのではないかと感じた。
また、ベトナム戦争証跡博物館博物館にも足を運んだ。
枯れ葉剤の影響で苦しむ子供たちの写真は、とてもじゃないが直視できない。
私も広島出身だが戦争の爪痕や悲惨な記憶は簡単に消せる物ではない。
今だにロシアウクライナ戦争やパレスチナガザでは戦争が続き、人間はなぜ、何度も同じ過ちを繰り返すのだろうか。
やり切れない思いが胸をよぎった。
社会主義なのに自由。
皮肉なほどに、成果主義。
そんな矛盾を孕みながら、それでもベトナムは、急速に前に進んでいる。
この国には、まだまだ無限の可能性がある。
私はそう確信した。
4泊5日、短い時間ではあったが、ホーチミンは私に多くの刺激と問いを投げかけてくれた。
また訪れたい。
次に来るとき、この国はどんな顔を見せてくれるだろうか。
その時を、楽しみにしている。
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